批判という作法

 しぶりに鬱系のものを書いて落ちてしまいました。少しおセンチになっていたのでしょうか。もう鬱日記の類は書くまいと肝に銘じたのでございますが、世の鬱日記は増加する一方であります。今、悶絶する自分を承認してもらう意味では、鬱日記はプラスに機能しますが、書くことで辛い自分を再生産してしまい、再び承認を得るために書くというネバーエンディング・ストーリーに陥る危険を頭の隅に置いておいてもいいかも。私は延々、4年ぐらいやってしまった。今となっては文章として何の価値も見出さず、従って全く顧みられることもありません。その恥を今尚、ネットで曝すのは私の惨めさが反面教師になることがあったなら、それならばあの恨み辛みを綴り続けた数年間も浮かばれようと、そんな気持ちでございます。
 
 

  というサイトの中で、ごく稀にですが好評を得たものと云えば、鬱な掲示板2ちゃんねる的掲示板でされた論争ではないかと。振り返ると未熟な議論もままあります。ですが、それらは批判という作法で自分の思想と云っては大げさですが、まあ自分の考えてきた事を目一杯現前化させたものなのです。初期の議論は残っておりませんが、後期のものはダイジェストとして残してあります。他人への誹謗中傷の類は一、二度削除したことはありますが、私への批判、罵詈雑言といったレベルの低いものも全てそのまま残しています。低レベルなものは、同じ土俵に立つなんて馬鹿なことはしませんが、何かいい論点を得ている批判はほぼ全て、新たな批判という形で答えてきました。この二つの掲示板での一連の論争がなければ、現在の思考には到底、到達していないのではないでしょうか。その意味で他人を批判するという作業は思考の自己鍛錬に大いに役立ったようです。また一方、私は「書く」というで批判する作法により、もたらされる恐ろしさ、背筋を走る戦慄に苦しめられ続けることにもなりました。私は何でもかんでも、怒っている印象をお持ちやも知れませんが、他人を批判する場合、神経をすり減らすぐらい論理性というものに気を使います。批判を「書く」という恐ろしさは、それ以上の批判をくらうリスクを受け入れるということです。これは本当に怖いことですね。書くことにより思っても見なかった、突然、冷や水をくらうような恐ろしい批判を受けるかも知れない。その恐怖は常に脳裏のどこかでじっとあぐらをかいで、その出番を待っているようです。でかければ、でかい批判をすると、その後には読むのも恐ろしい批判が待ち受けている。それらの批判を正当なものではないと他人を納得させるには、筆圧を強くするのではいけません。考え抜き、巧妙な論理によって正当性を担保された批判を書く以外には術はないのです。数は少ないですが、私の書いたものを読んでくださっている、コアな方々の存在は私が批判という作法から逃げなかったことに拠るものだと考えています。自ら批判の端緒を誘発して、他人を煽る。その後には、恐ろしい批判が待ち受けている。精神は衰弱し、逃げ出したい欲求を抑えつつ再び考えることは、私にとって非常に苦しい作業なのです。びくびくした情けない風体が論争における私の実の姿なのでございます。批判する作法における他者は実に脅威な存在なのでした。けれども地を這いずる思いで批判に答え逃げずにやってこれた。私は他者を批判することで自らを暗澹とした思考の淵へ追い込み、そうすることで自己の思考を構築してきたのであります。批判した方、批判をくれた方、こういった方々がいなければ、なまけ癖のある私は考えようとはしなかったのではないか。ですから私はそういった私に厳しく接してくれた方々には低頭、感謝なのでございます。例え罵詈雑言の類でもあろうとも。批判を端緒に思考というシステムは創発され、足を踏み入れたことのない思考の彼岸へと導いてくれるのだから。
 
 日、おやじのお説教はその辺りで止めとけ!ニート論板橋区さんを批判しました。その後の板橋区さんの記事を拝見して、やはり考えることができる方は、書くことで生じるリスクをちゃんと受け入れている。こういった方がネットの在野には存在するのですね。嬉しくなった次第であり、つまりは、私の批判という作法は尽きることがないということです。
 
 後に思想や哲学をやって何になるのか?と疑問を含んだ嘲笑をされている方もおいででしょう。その際、私は文芸評論家の高澤秀次氏が講義において学生から同様の質問を受けて、喝破されたことを想起せずにはおれないのです。氏曰く、「思想なんかやっていて何かのためになる訳がないだろう!」しかるに、氏は思想をやっている。思考するということは、どうしようもなく徒労であり無益且つ不毛さを内包している。そういった矛盾を抱えて尚も思考する者は、「思考せざるを得ない」者なのでしょう。かくも悲哀に満ちた種族に問いを投げかけること自体、ナンセンスなのかも知れません。



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